法多山、心の光が灯る場所 〜アヤカの再生物語〜

その日、アヤカは迷いの中にいた。

新緑が眩しい法多山を訪れた彼女は、どこか遠くを見つめるように山門をくぐった。長かった闘病生活が終わり、ようやく社会に戻る準備を始めたばかり。しかし、鏡に映る自分は、かつてのように輝いていないように感じていた。失った自信、身体に残る傷、そして心の奥底に沈んだままの不安。それらすべてが、彼女を前に進むことをためらわせていた。

ドラマチックフォトグラファーである私に依頼してくれたのは、そんな彼女の「もう一度、前を向きたい」という静かな決意からだった。

撮影は、奥の院へと続く参道をゆっくりと歩きながら始めた。

最初は、ぎこちなかった。カメラを向けると、無理に作った笑顔がこぼれる。私は焦らず、彼女に語りかけた。

「アヤカさん、ここはすごく力が湧いてくる場所なんですよ。どうか、感じるままに歩いてみてください」

彼女は小さく頷き、深呼吸をした。

木漏れ日が降り注ぐ石段を、一歩、また一歩と踏みしめていく。 苔むした石灯籠、古木から伸びる力強い枝、そして風に揺れる葉の音。 法多山の清らかな空気が、閉じていたアヤカの心に少しずつ染み渡っていくようだった。

やがて、彼女の表情が柔らかくなり始めた。

「ここの空気が、すごく澄んでいて…」

そう呟いたアヤカの顔に、初めて本当の笑顔が灯った。その瞬間、私は無心でシャッターを切った。その笑顔は、これまでの彼女の苦悩をすべて包み込み、そして浄化していくような、力強い光を放っていた。

奥の院にたどり着いた時、彼女は静かに手を合わせた。 そこには、自分を支えてくれた人々への感謝と、これから歩む未来への静かな誓いが込められているようだった。

私は、彼女がその場所で見つけた「光」を、写真に収めた。 それは、彼女の心が癒され、新たな希望を見出した、紛れもない瞬間の証明だった。

撮影を終え、帰り道。

アヤカの足取りは、来た時とはまったく違っていた。背筋が伸び、瞳には確かな輝きが宿っている。

「渡瀬さん、私、自分のこと、好きになれそうです」

彼女が微笑みながら言ったその言葉に、私は胸がいっぱいになった。

数日後、出来上がった写真を見せた時、アヤカは涙を流した。

「私、こんな顔もできたんですね。この写真の私、すごくいい顔してる。これが、本当の私なんですね…」

一枚の写真が、一人の人生を変えることがある。

法多山という特別な場所で、彼女の心に灯った光。それを写真という形で永遠に残すことができた。

アヤカの新しい物語は、今、まさに始まろうとしていた。 そして、その始まりを祝福するように、法多山には清らかな風が吹き抜けていた。

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